“これからの日韓関係に対する私の夢” (ハフィントンポスト 2016年 1月 8日)

ハフィントンポスト

 

 

 

“これからの日韓関係に対する私の夢”

2016年 1月 8日 

エマニュエル パストリッチ

「慰安婦問題」の日韓政府合意のニュースを聞いたとき、私は半信半疑だった。慰安婦問題は、人々の感情を逆撫でし、十年以上も日韓関係の障害になってきた。それが、二人の外交官が密室で交わしたやりとりによって、そう簡単に解決できる訳がない。帝国主義の悲痛の記憶と、植民地時代の問題に対する軽視は、いまだ我々の傍に残っている。同じ過ちを、知らぬ間に再び犯してしまわぬように、こうした問題を決して忘れず、自らの戒めとしなくてはならない。

これから歩む道を、両国で合意して築くためには、対話の場に多くの人々が参加するしかない。日本と韓国の専門家、一般国民が会って、こうした問題、そして現代との関連を話し合う機会が、我々には必要である。こうした国民のコンセンサス抜きには、政府高官によって交わされた合意は、本来の意図がどうであれ、ごまかしだと解釈されてしまうだろう。

私には、金大中政権時代に日韓の文化交流が増えたことが、今でも印象に残っている。当時、イリノイ大学で日本文学の教授だった私は、両国がより客観的な視点で歴史問題の解決に着手し、お互いが共に協力し合える時期がいよいよ来たのだろうと、心を励まされた。

しかし、(経済や貿易に対し)人的交流による日本と韓国の協力の可能性は、失敗に終わった。重要な問題について日本人と韓国人が意見を交換できる機会も減ってしまった。自由貿易交渉、領土問題について高級官僚らの会議があったが、市民同士が親交を深め、何かの目的に向かって一緒に力を合わせる機会は減った。

日韓関係は、私にとってとても大切である。私は、両国の文学と文化の研究にキャリアを捧げてきたため、どちらの国もふるさと同然である。

私は、十九世紀の文人、田能村竹田の漢詩について日本語で修士論文を書いて、東京大学で修士号を得た。その後、荻生徂徠の思想を研究し、彼の著書「訳文筌蹄」を初めて英訳した。十年間アメリカで日本文学の教授を務め、日本の古典文学を研究しながら学部生と院生に日本文学を紹介した。親しい日本人の友達も多く、院生時代を過ごした東京の駒場、要町、本郷、神保町の面影は今でも鮮明に覚えている。

韓国も私にとって非常に大切だ。私は、韓国の古典小説を研究し、儒学者の丁若鏞と朴趾源の書物を翻訳し、アジア・インスティチュートの研究プロジェクトで数多くの韓国人研究者と仕事をした。日本語ほど韓国語は上手ではないが、韓国の女性と結婚して十九年になり、家族とともに韓国に住んで八年になる。

私は、日本と韓国の学者にインスピレーションをうけ、キャリアを築いてきた。また、日本と韓国の文豪の名著は、私の人生を豊かにしてくれた。日本と韓国は、私の両親であり、親しい友人なのである。

私が歴史について考えるとき、家族の歴史を抜きに考えることはできない。私の場合はアジアではなく、ヨーロッパでの過去の悲劇に立脚している。父方の家族はハンガリーに住むユダヤ人であった。私の曽祖父はブダペストのはずれのBüd St. Mihyという小さな村の出身であった。父は現代の地図でその村を探そうとしたが、見つけることができなかった。

ワシントンDCのホロコースト記念館を訪問したときにはじめて、父はその村がドイツ人によって完全に抹殺され、すべてのユダヤ人の村人たちが死の収容所に送られたことを知ったのである。生き残った人もいるかもしれないが、私はヨーロッパにいる父方の親戚を知らない。ドイツによる死のキャンペーンがもたらした破壊によって、ヨーロッパとのあらゆる関係が断ち切られてしまったのである。

対照的に、私の母はルクセンブルクでカトリックの家庭の第六子として育った。彼女の家族はナチスが台頭した際に二つに引き裂かれた。彼女の父、すなわち私の祖父は、ナチスに強く反対していて、ナチスによる占領後もナチスが最終的に敗北するまで反対を貫いた。それでもやはりナチス党にいた友人は多かったし、自身をさっぱり社会から切り離すことはなかった。

一方で祖父の弟は早くから熱心なナチスの支持者であった。親戚の多くはヒトラー・ユーゲントという青年団体の活動に積極的であり、何人かはドイツ軍に入ってロシアに行った。

このような家庭背景により、私は子供の頃から二つの想像をしてきた。ドイツ人に狩られるユダヤ人の気分はどうだったのだろうか。大規模な凶悪犯罪に手を染める国家にとらわれる気分はどうだったのだろうか。

私はどんな判断を下すときも、本能的に二度考えるようになった。私の母国、アメリカ合衆国がこの十五年間、法的裏付けあるいは正当性もなしに、多くの外国の戦争に関わってきたのを見ていて、私は他人を批判することに、とても躊躇するようになり、また、不条理な体制にあって生き残ろうとする者に対して、より同情的になっていった。

究極的に、日本人がしたことは、邪悪な民族あるいは邪悪な文化のもたらした結果というよりはむしろ、帝国主義体制の産物であり、拡張のため、海外市場を手中に収めるためにおこなった政策の結果であったことを認識することが重要である。日本の犯罪行為もまた、人類の中にある偽善と矛盾の産物であった。われわれの誰もがみな、恐ろしい残虐行為をおこないうる存在であり、そのような残虐性がわれわれの中にある、ということに気づきえなければ、慰安婦の教訓を真に学んだということにはならない。

慰安婦問題について思いをめぐらしていると、ふとマーティン・ルーサー・キング牧師が一九六三年八月二八日におこなった有名な演説「私には夢がある(I Have a Dream)」が頭をよぎった。キング牧師がリンカーン記念館の階段で人種差別のないアメリカを思い描き、二〇万人の聴衆がその演説を聞いて深い感銘を受けた。

その中に「私には夢がある。いつの日か、この国が立ち上がり、『すべての人間は生まれながらにして平等であることを、自明の真理と信じる』(訳注・アメリカ独立宣言)というこの国の信条を真の意味で実現させるという夢が」という言葉があった。

私はそのすばらしい演説に感銘を受けて、次の短い文章を書いた。

私には夢がある。

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私には夢がある。それは、いつの日か、韓国人と日本人がひとつになって、中国、アメリカと一緒に、人類を脅かしている真の敵に向かって力を合わせるという夢である。敵とは、隣国ではなく、全世界を脅かしている環境危機、つまり気候変動である。その解決のため、全面的に協力するという夢である。

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私には夢がある。それは、いつの日か、韓国の歴史家が、日本の帝国主義に勇気をもって立ち向かい、犠牲になった日本の幸徳秋水のような学者たち、小林多喜二のような作家たち、そして政治家、市民に敬意を表し、韓国の歴史博物館でも彼らを記念するという夢である。

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私には夢がある。それは、いつの日か、韓国人が日本の誤った政策を批判するとき、平和主義を主張した笹本潤先生の名前を思い浮かべ、引用するという夢である。

そして日本人が科学技術政策を考えるときに、韓国の世宗大王の知恵に学び、古代韓国の優秀な行政の事例を参考にするという夢である。いつの日か、日本と韓国の過去二千年の王朝の行政システムを理解する両国の歴史学者たちとともに、日本と韓国が合同の連続講座をおこなうという夢である。そして専門家たちが、両国の政府官僚と会って、過去の制度で実践されていた良策から、どう未来の行政に活用できるかを議論するという夢である。

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私には夢がある。それは、いつの日か、日本と韓国が、いにしえの時代にそうだったように、平和に包まれ、一続きの村々となってつながるという夢である。村と村の間に人々が行き来し、お互いに尊敬し合いながら、ときには結婚しに行ったり来たりするという夢である。

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私には夢がある。それは、いつの日か、日本と韓国がともに世界中の人身売買と性的搾取に対してより厳格な法律を制定するという夢である。女性に対する犯罪をなくす努力をするように、世界の他の国々を促す、高い基準の新たなアカウンタビリティ(説明責任)を設定するという夢である。過去の慰安婦が、味わった苦しみの分、補償され、彼女たちは日本と韓国政府の両方が、今日の女性のためにこの悪夢を終わらせることに尽力していることを知るという夢である。

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私には夢がある。それは、いつの日か、日本のすべての小学校が、韓国に姉妹校を持ち、日韓の小学生がインターネットを通じて日常的に一緒にプロジェクトに取り組むという夢である。両国の学生、両国のコミュニティーが、お互いに近所のこと、家族のこと、希望、そして夢を話し合える未来を想像しよう。子供の頃から相互利益のための共同プロジェクトを通じて、個人的な友情を長年にわたって育み、日韓関係の新時代の基盤を築き上げていくという夢である。

 

 

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