「判事の全員一致、米国ではありえず」パストリッチ NNA ASIA 共同通信

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共同通信

2017/03/13

憲法裁の弾劾認定、識者はこう見る

■「判事の全員一致、米国ではありえず」

パストリッチ・慶熙大学副教授

日本文学専攻、アメリカで10年間教授をつとめた。民間シンクタンク、アジア・インスティテュート所長

大統領の弾劾が成立したことは米国人にとって驚きだっただろう。米国には弾劾された大統領がいない。ウオーターゲート事件で追い込まれたニクソン元大統領は弾劾前に辞任を選び、その後赦免された。朴氏にも国の混乱を回避する選択肢があったのではないか。

米国の場合、進歩と保守の基本的な思考方式はあまりにも違うので対話はまず不可能。米最高裁の判事が自らの理念や主義よりも民意を優先することはありえない。民意を反映しやすいのは韓国の司法制度の長所と言えるが、一方で、判事の判断基準は曖昧になりがちだ。

憲法裁判所の李貞美所長代行が決定文を読み上げる様子は、芝居を見ているような面白さがあった。決定文の最後になって弾劾認定ということが分かった。韓国人には感動を与える効果があったようだが、最初に結論を述べる米国スタイルと比べると違和感を覚えた。

また、朴氏の疑惑に関連する調査と裁判が長期化する場合は、共に民主党が大統領選挙に向けた政策論争を曖昧にするなど政治的に利用される恐れもある。今回の弾劾認定は韓国の誤った政治文化の改革につながらなければ意味がない。「大統領不在」の長期化による外交の停滞も心配だ。

■「安定政権が誕生すれば、日韓関係改善も」

木村幹・神戸大学教授

比較政治史

弾劾が認定されたことで保守派の崩壊は決定的となり、革新系「共に民主党」での党内選挙が実質的な大統領選挙となる可能性が高くなった。現状では文在寅氏が圧倒的に優勢だが、「文氏が大統領になると日韓関係が一層悪化する」とみるのは早計だ。日韓関係が良好だった時期を分析すると、いずれも大統領の支持率が高かった時期と重なる。保守か進歩(革新)かはあまり関係ない。実際、日韓関係が「過去最悪」と言われた2011~15年は保守政権だった。

文氏が圧倒的な支持を背景に安定的な政権を作ることができれば、日韓関係が改善に向かう可能性は十分ある。文氏は盧武鉉政権時代に青瓦台(大統領府)で秘書室長を務めたことのある人物で政権運営のノウハウを知っている。朴氏と前回の大統領選挙を戦ったことで「身体検査」も済んでおり、これ以上、スキャンダルが出るとは考えにくい。ある意味で、最も安定した政権を作れる条件を備えているといえる。懸念があるとすれば、北朝鮮に対する融和的な姿勢だ。開城工業団地の稼働を再開する可能性は高い。しかし今の朝鮮半島情勢を考えれば、それくらいしか打つ手がないともいえる。

ただし、国民の期待が大きい分、次期大統領が受けるプレッシャーはかなりのものとなるだろう。経済の低成長や格差の拡大など社会全体に閉塞感が漂っているが、次期大統領が打てる政策の幅は限定されており、期待が一気に失望に変わる恐れがある。憲法裁の今回の判断で、大統領弾劾に対するハードルが低くなったのも気がかりだ。

■「選挙サイクルが変わり、政治行動に変化」

浅羽祐樹・新潟県立大学大学院教授

韓国政治学

「ろうそくデモ」と「太極旗デモ」に韓国社会が分裂していた中で、憲法裁判官8人が全員一致で罷免を決定したことは、紛争の最終解決者として国論を統合する上で、意味が大きい。日本では「法よりも民意を優先する」として韓国に対して否定的なイメージを持ちやすいが、「弾劾」の制度趣旨を考えれば、民意をある程度反映するのはむしろ当然だ。89ページに及ぶ憲法裁の決定文を読んで、法理検討を丁寧に行い韓国の法制度が十分に機能したという印象をもった。

朴氏の罷免により、民主化後30年続いた選挙サイクルが変化する。5月に大統領選挙が実施され、次期大統領の任期は当選と同時に始まる。これまでの12月選出、2月就任という選挙時期にずれが生じることになる。韓国の政治家は選挙のタイミングによって影響を受けるため、4年ごとの総選挙や統一地方選挙、与野党内の統制力などにも大きく影響してくる。ゲームのルールが変わることで、政治家の戦略や行動パターンも当然変化してくる。さらに、次期政権では憲法改正が焦点になる。

5月の大統領選挙については、「共に民主党」の党内予備選が事実上の本選となるだろう。予備選は文在寅前代表と安熙正・忠清南道知事との争いとなるが、文前代表が当選する可能性が高い。ポートフォリオ(分散投資)は必要だが、チップの張り方にはその都度メリハリが必要だ。

文前代表が次期大統領になれば、日韓関係のさらなる冷え込みが懸念される。15年の慰安婦合意に関して、破棄とはいわないまでもプラスアルファの再交渉を求めてくる恐れがある。ただ、安保分野では北朝鮮の核問題やミサイル発射を念頭に、昨年11月に締結した日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などで引き続き連携していくものとみられる。

■「極めて常識的かつ合理的な判断」

朴チョルヒ・ソウル大学国際大学院院長

国際政治学

憲法裁の判断は民意に沿った極めて常識的かつ合理的なものだった。

憲法上与えられた大統領の権限を尊重しながらも、弾劾訴追を巡る争点の一つ一つを法律に従って判断していったためだ。「自らの手で勝ち取った民主主義を守ることができた」と国民は胸をなでおろした。

弾劾の是非を巡り分裂した国民が一つになるのは簡単ではないが、60日後の大統領選挙に向かって徐々にまとまりを取り戻すだろう。弾劾に反対するデモも盛り上がったが、彼らは何があっても朴氏を守ろうとするグループであって、本当の意味で保守派とは呼べない。今後も憲法裁の判断に異議を唱えれば唱えるほど、孤立を深めることになるはずだ。

現状では文在寅氏が次期大統領になる可能性が高い。日韓関係は厳しくなるだろうが、すでに最悪の日韓関係を経験した後なので、十分に免疫はできている。ただ「文氏=反日」という考えは一度捨てた方がいい。盧武鉉元大統領は反米のイメージが強いが、政策だけで見ると後にも先にもないくらいの親米政権だった。米韓自由貿易協定(FTA)交渉を開始したのが好例だ。

また長嶺安政大使が一時帰国する原因となった少女像にはこだわりすぎない方がいいだろう。新たに少女像が釜山に設置されたのは遺憾だが、撤去を大使帰国の前提条件にすると、慰安婦問題の解決を日本との対話の前提条件とした朴氏の時のように日韓関係が再び膠着する恐れがある。

■「保守は結集して左派政権誕生の阻止を」

尹昶重・元大統領府報道官

大手新聞社の政治部記者出身。現在は保守派の有力コメンテーター

憲法裁の判断は全く承服できない。大統領に抗議し退陣を迫った「ろうそく集会」の主張や特別検事の捜査結果をそのまま認めただけだ。メディアや野党を含めた左派勢力によって自由民主主義が崩壊してしまった。60日後の大統領選挙では、保守派は結束力を高めて北朝鮮に親和的な左翼政権の誕生を阻止しなければならない。

現時点では、文在寅氏が次期大統領の有力候補であることは事実だ。しかし、文氏人気は朴氏不人気の反動みたいなもので、弾劾騒動が一段落すれば、支持基盤は弱まるだろう。

かつて「共に民主党」の事実上のトップだった金鐘仁氏の同党離党が良い例だ。金氏は「政界渡り鳥」と言われており、政治部記者として30年以上政局を見てきたが、彼ほど権力への嗅覚が鋭い政治家はいない。権力があるところには必ず金氏がいた。その金氏が離党したということは、文氏が大統領になる可能性はないと判断したということだとみている。

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